投稿

ラベル(わたしの積読)が付いた投稿を表示しています

わたしの積読(3)

イメージ
 今日の積読 チョ・ナムジュ(矢島暁子 訳)『ミカンの味』朝日新聞出版、2021年。  韓国フェミニズムが紹介されるようになり、日本でも知られてきました。特に『82年生まれ、キム・ジヨン』は、日常で経験する女性抑圧・差別を描き、広く共感を呼んで #MeToo 運動でも言及される作品です。  今日の積読の『ミカンの味』は、『82年生まれ、キム・ジヨン』の作者であるチョ・ナムジュによる小説作品です。その内容は、カバー裏の紹介によれば次の通りです。     中学校の映画部で仲良くなったソラン、ダユン、ヘイン、ウンジは「いつも一緒にいる四人」。中学三年生になる直前、彼女たちは旅先の済州島で衝動的にある約束を交わし、タイムカプセルに入れて埋める。さまざまな感情と計算が隠されたこの約束をめぐって、次々と事件が起こるが――。 4人の女子中学生の葛藤や成長を描きながら、それぞれの「声」を取り上げている小説です。「シスターフッド小説」として評価されています。

わたしの積読(2)

イメージ
今日の積読 高山裕二『憲法からよむ政治思想史』有斐閣、2022年。  日本国憲法には、さまざまな理念が表現されています。たとえば、基本的人権、国民主権、平和主義といった理念です。  こうした理念は、多くは、西洋における政治思想史の中で作り上げられてきたものです。本書は、日本国憲法の条文や理念を出発点として、西洋の政治思想史をたどるテキストです。  目次は以下の通りです。  プロローグ 第1回 クルーソーと「近代」の物語──政治思想史の課題と方法  第Ⅰ部 内戦の時代(16・17世紀) 第2回 政教分離──アウグスティヌスとマキアヴェリ 第3回 思想・良心の自由/信教の自由──宗教戦争とモンテーニュ 第4回 主権/代表──ホッブズと近代国家の作り方 第5回 基本的人権/議会──ジョン・ロックと近代立憲主義の成立  第Ⅱ部 イングランドの世紀(18世紀) 第6回 権力分立──政治体制論の伝統とモンテスキュー 第7回 結社/二院制──アメリカ独立革命とフェデラリスト 第8回 経済的自由/財産権──スコットランド啓蒙思想とスミス  第Ⅲ部 フランス革命の時代(18世紀) 第9回 生存権/憲法改正──ジャン=ジャック・ルソーと人民主権 第10回 政党/代議制──エドマンド・バークとフランス革命 第11回 自衛権/公務員──カントとリアルな平和論  第Ⅳ部 〈民主化〉の時代(19世紀) 第12回 地方自治/陪審制──トクヴィルと政治参加 第13回 平等/参政権──ミルとフェミニズムの誕生 第14回 天皇制/議院内閣制──バジョットの英国国制論と「行政権」  エピローグ 第15回 労働社会の「人間らしさ」?──ヨーロッパの世紀末と政治思想史の役割  目次からして、非常に興味深い論点が多くあります。政教分離からマキアヴェリを、思想・良心の自由からモンテーニュを、経済的自由からスコットランド啓蒙思想を読みなおす内容です。高校公民科「公共」では、日本国憲法の内容や意味と同様に、政治思想史を扱います。また、理念や概念といった抽象度が高い内容を「活用」することも求められていることから、授業づくりの参考になりそうな一冊と言えそうです。

わたしの積読(1)

イメージ
問題の所在  「積読(つんどく)」と呼ばれる行為があります。読もうと思って書籍を購入などして、手元にあるにも関わらず、読むことができず「積んである」状態のことを指し、おおむね「積読になってしまっている」というような、少しの後ろめたさを持ったものとして語られがちです。  しかし、積読は悪いことなのでしょうか。永田希『積読こそが完全な読書術である』では、情報洪水に溺れそうになるこんにちにおいて「情報を保存し保管するものだ」という書物の根本的な価値に立ち返り、積読を擁護しています。  詩人に聞けば「読めないものだから心配するな」(管啓次郎『本は読めないものだから心配するな』)と言われ、哲学者に聞けば読んでいない本を堂々と語る方法を教えてくれます(ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』)。  私はというと、大学時代に「本を買うよろこび」に目覚めて以来、本を読むペースよりも本が増えるペースが早いという日々を送っています。したがって、積読は増える一方です。  しかし、今確認したとおり、積読には積極的な意義も見出すこともできます。そうであれば、いま、わたしが「積読」となっている本を紹介するのも、何らかの意味があると言えるのではないでしょうか。この企画は、そのためにあります。 今日の積読 ① 杉尾宏編著『教育コミュニケーション論:「関わり」から教育を問い直す』  本書は、人間がどのような社会においてもおこなってきた「教育」という営みは、コミュニケーションと不可分であるとの問題意識から、コミュニケーションの在り方を検討することを通じて教育を問い直す論集です。  周知のとおり、現在の学校現場では「主体的で対話的な深い学び」の実践が深められており、ここにいう「対話」とコミュニケーションとは、密接に関係するものであると考えられます(なお、本書の出版時期は、文科省が「主体的で対話的な深い学び」を推し進める前になります)。  目次を見てみましょう。 序章 近代学校の権力構造とコミュニケーション / 杉尾宏 1章 日常的行為としての教育コミュニケーション / 中間玲子 2章 対話としての教育 / 大関達也 3章 教育コミュニケーションの規定要因としての時間割 / 渡邊隆信 4章 教室という場におけるコミュニケーション / 宮元博章 5章 日本的コミュニケーションの特質と様相...